発達障害のお子さんをやる気にさせる声かけとは?
なかなか集中できなくて勉強が進まない…
はじめに
近年「発達障害」に対する認知度が向上したことで、診断を受けた人が身近に居られる方も少なくないのではないでしょうか。どのような症状があるのかは個人差があるのですが、学校に通うお子さんに多い悩みとして、「他の子どもよりも勉強の進みが遅い」「すぐ飽きてしまう」「得意とニガテの差が激しい」といったケースが挙げられます。
このようなお悩みに対応するには、まずは発達障害の特性を知ることが重要です。この記事ではそもそも発達障害とはどういうものなのかという概要から、どうして勉強が進みにくくなってしまうのかというポイント、そしてそれに対応する方法を詳しくご紹介します。
発達障害について
発達障害はそれだけで1つの障害であると誤解されがちですが、実は脳の発達に関わる複数の障害における総称です。そのため、症状や特性・困っていることなどが人によって異なります。
肝機能の発達に偏りがある
発達障害が引き起こされる要因は、先天的に脳機能の発達に遅滞や偏りが見られる点です。この「先天的に」という部分が重要で、発達障害は育った環境や親の育て方などが原因となることはありません。そのため発達障害の診断においては、「症状は早期の発達段階までに発現していなければならない」という基準が定められています。
また、「発達の遅れ」という表現から知的障害と混同されることもありますが、両者は発生要因が異なる障害です。発達障害では知能指数(IQ)が標準値である場合も少なくありません。ただし、発達障害と知的障害を併発しているケースもあるため、判断が難しい場合は専門家の診断を受けましょう。
大きく3つのタイプに分けられる
発達障害には、大きく「ADHD(注意欠如多動性障害)」「ASD(自閉スペクトラム症)」「学習障害」という3種類に分けられます。これらは単独の症状を持つこともあれば、グラデーションのように複数の症状が現れるケースもあります。
ADHD(注意欠如多動性障害)
■不注意(うっかりミスが多い、集中できない)
■多動性(じっとしていられない)
■衝動性(思いつきで行動してしまう)
といった症状が表出する障害です。これらすべての症状が同じように現れるのではなく、「不注意優勢型」や「多動優勢型」など、特定の症状が顕著に見られるというケースもあります。
ASD自閉スペクトラム症
かつて、「アスペルガー障害」「広汎性発達性障害」などと呼ばれていた障害です。主な特性として、
■特定のものごとに対して非常に強いこだわりがある
■コミュニケーションのやりとりが苦手
■感覚過敏もしくは鈍麻が見られる
といったことが挙げられます。
学習障害
知的な発達の遅れなど他の要因が見られないにもかかわらず、文字の読み書きや計算の習得が困難な状態であることを指します。例えば、読むことに困難が伴う「読字障害」がある場合、文字の形から読み方の音をスムーズに連想できない結果、文章を読むことに時間がかかるといった特徴があります。このほかに「書字障害」や「算数障害」なども学習障害に含まれます。
発達障害の特性で勉強が進まなくなる理由
では、発達障害におけるこれらの特性によって日々の勉強にどのような困難が伴うのでしょうか。
授業や宿題に対する集中力が続かない
まず挙げられる悩みとして、「集中力が続かない」「すぐに飽きてしまう」といった課題があります。ここで重要なのは、発達障害に由来する「集中できない」という状況の原因が複数あるという点です。
集中できない原因の例
・特定の勉強にニガテ意識があり集中できない
・スマホやゲームなど他のものに気を取られている
・じっと座っていることが苦痛
・勉強する環境が落ち着かない
・睡眠障害があり日中も眠気がある
読み書きや計算など特定の物事がニガテ
次に、集中力ややる気の問題ではなく「得意なこと」と「ニガテなこと」の差が大きい、日常生活に困るほどニガテ意識を持っているパターンがあります。特にそのニガテとしていることが「学習障害」であることを本人も周囲も気がつけない場合、ニガテな分野を克服できないことに対して「怠けている」「努力していないだけ」というイメージを抱かれる可能性もあります。このような思い込みでニガテな物事を克服させようという対応を続けることで、学習への意欲や自信を喪失させてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
興味関心の幅が狭い
ある特定の分野や知識に関してのみ、非常に強い興味を示すという発達障害由来の特性があります。このような特性は「過集中」と呼ばれ、先ほどの「集中できない」というパターンとはまったく逆で、「好きなことに対してはとことんのめりこんでしまう」「時間を忘れるほど続ける」といった行動が見られます。「大人でも知らないような専門的な知識をいくつも覚えた」など学習面でも生かせるメリットがある一方で、過集中の状態から解放された後にどっと疲れてしまい切り替えができなくなることもあります。
お子さんに勉強への興味を持たせる声掛けの方法
ここまで紹介した他にも、学習困難に対する困りごとは人それぞれ異なります。ただし、共通して言えることは「ちゃんと勉強しなさい」「どうしてできないの」など、「できないこと」に対して叱ってしまうのは逆効果という点です。
では、どのように声をかけることで落ち着いて勉強をしやすくサポートできるのでしょうか。具体的な対処方法を見ていきましょう。
できたことに対して肯定的な声かけをする
お子さんを気にかけてしまうあまり「できないこと」だけにフォーカスを当ててしまうと、当事者側にとってはモチベーションの低下、より強いニガテ意識や不安を感じることにつながります。できないことに対して本人も悩んでいるケースも多く逆効果になってしまうため、まずは「できたこと」に対してほめる習慣を作りましょう。
成功体験を積み重ねて自信持たせ、挑戦する意欲を保つ
勉強にかかわらず、発達障害を持つ子どもは日常や社会生活のなかでできないことに対する失敗体験を積み重ねやすい傾向にあります。幼いころから周囲と比較されたり、注意ばかりされたりすることで「どうして自分はできないんだろう」「何をやっても無駄」と自分に自信を持てなくなってしまうケースも少なくありません。そして、幼いころのこうした体験は、大人になるにつれての人格形成やものごとの考え方にも深く関わってきます。「ほめられた」「自分を信じてもらえた」という成功体験を積み重ねることで、自分に対する自信を持てるようになり、モチベーションや挑戦する意欲を保つきっかけの一つになるでしょう。
勉強するメリットを教える
言葉でほめるのと同時に、「勉強することでこんなに良いことがあるよ」という意識を持たせることが重要です。
短期的にクリアできる目標を立てて、勉強を習慣かさせる
発達障害の特性の一つに、「報酬系機能」という脳の働きが低下する症状があります。
報酬系機能の低下とは
報酬系機能は満足感や達成感を得たときや、それを得るために必要な時間にドーパミンという神経伝達物質を分泌します。このドーパミンの分泌量が少なくなることで、「時間をかけて手に入れられるもの」に対して魅力が湧かず、「すぐに成果を得られるもの」を選択してしまう現象が発生します。
例えば、「あと2日待てば新しくより良い製品を買えるのに、待つことが我慢できずに既製品を買ってしまった」といった行動パターンが考えられます。勉強をしたことで目に見えて得られる成果として「テストで良い点が取れた」「志望した学校に受かった」などがあります。しかし、これらは得られる報酬としては非常に長期的なため、「毎日勉強をする」という行動と結び付けられず、結果的に意欲が湧かないというパターンに陥ることもあります。
そのため、「これをがんばったらごほうびとしてお菓子をあげる」「勉強をがんばったら好きなことをなんでもして良い」など、短期的にクリアできる目標を少しずつ立てることで、勉強への取り組み方が習慣化しやすくなります。このように報酬系機能の特性を生かすことで、「目標を達成できた」という成功体験にもつながり、先ほど触れた自己肯定感やモチベーション向上も期待できます。
子どものニガテ分野を補う形で声かけをする
まずはニガテなことを実践した行動に対して声かけをスタート
これは「肯定的な声かけ」と通ずる部分もありますが、お子さんのニガテ分野に対して「結果」だけを求めすぎない声かけが重要です。「どうしてできないの」と否定的な態度を取り続けていると、失敗することが怖いと感じるようになります。これが加速すると、勉強や学校を避けるようになってしまい、「勉強をしてもらいたい」という親御さんの思いとは裏腹に、お子さんにとって逆効果となってしまいます。このような声かけでモチベーションを低下させることのないよう、まずは「ニガテなことを実践した」というその行動に対して、「がんばったね」などの声かけからスタートしましょう。
定期的に声かけする
勉強から得られるものを再確認し、モチベーションを伸ばす
これまでに紹介したポイントを踏まえたうえで、声かけ自体をこまめに実行することが重要です。長期的な目標を叶えるために日々コツコツと努力を積み重ねるという行為は、大人でも難しいものです。「勉強をがんばりたい!」と一度決意をしても、どうしても好きなことや気になることに気を取られてしまう経験がある人も少なくないのではないでしょうか。発達障害の特性ではこのような経験に陥りやすいため、こまめに声かけをして「勉強をすることの意味」「勉強をしたことで得られるもの」を再確認して、モチベーションを伸ばしていく工夫が重要です。
誤解が生まれないよう具体的な内容の声かけを
また、さらに効果的な声かけを行うためには「どのような行為をして欲しいのか」を具体的に伝えることです。「これはしないでね」「ちゃんとして」などの曖昧な表現は、「じゃあ何をすれば良いの?」「ちゃんとってどのくらい?」と受け止めてしまいます。「あと10分したら、ゲームをやめて勉強しようか」といったように、誤解が生まれないような具体的な内容の声かけを心がけましょう。
自宅以外での勉強を進めやすくするポイント
自宅できちんと対策ができたとしても、学校や塾で半日以上家を離れるスケジュールというお子さんも少なくありません。その場合、自宅以外の学習方法に不安を感じる方もいるのではないでしょうか。最後に、自宅の外で勉強を進めやすくできる対策をご紹介します。
学校で指導計画を立てられないか相談する
「発達障害者支援法」という法律では、「発達障害者の支援のための施策」として「個別の教育支援計画」の作成を推進しています。個別の教育支援計画とは、発達障害をはじめ障害を持つ児童生徒一人ひとりの具体的なニーズや支援方法を提案し、教育的支援を行うというものです。この支援計画は、右の4つのプロセスを経て作成されます。
障害のある児童生徒の実態把握・実態に即した指導目標の設定・具体的な教育的支援内容の明確化・評価
なお、この指導計画の作成はあくまで政府が「推進」しているだけであって、義務付けられてはいません。学校が発達障害に対してどれほどの理解があるかによって、対応が大きく分かれるポイントになるでしょう。もしも学校からのサポートに限界があると感じたら、発達障害の子どもに理解やノウハウのある機関に頼るのも一つの方法です。
発達障害に理解のある塾・家庭教師を利用する
発達障害の認知が急速に広まったことで、発達障害児を対象とした学習塾や家庭教師が近年増えつつあります。個別指導や少人数での指導によって、一人ひとりの特性を生かしたサポートを受けられることが大きなメリットです。ただ工夫して指導することだけにとらわれず、モチベーション向上などのメンタルに関わる部分や日常生活に関わる部分、家族へのサポートも積極的に行う事業者もあります。無料で体験入学を実施していることも多いため、まずは気になった学習塾や家庭教師で体験学習してみるというのもおすすめです。
専門的な支援機関に相談する
勉強をはじめとした日常生活を含めた包括的な支援を希望している場合は、発達障害の知識に詳しい専門知識にアドバイスやサポートを依頼するのも一つの方法です。具体的には、各自治体に以下のような支援機関が存在します。
発達障碍者支援センター・児童発達支援センター・精神保健福祉センター
選択肢がたくさんあってどこに相談すればよいかわからないという方は、各自治体の役所にある福祉課などに相談してみましょう。この窓口で直接支援が受けられるわけではありませんが、困りごとや支援して欲しい内容を職員がヒアリングし、適切な支援機関を紹介してくれる自治体も増えています。
おわりに
発達障害を持つお子さんが効果的に勉強を進めるために重要なのは、特性を理解したサポートです。もちろん本人の努力も必要ですが、家庭をはじめとした周囲の効果的なサポートがあるのとないのとでは大きな差が生まれます。ただ闇雲に「勉強しなさい」と叱るのではなく、子どもの気持ちや特性に寄り添った声かけを行い、安心して勉強できるような環境づくりを目指しましょう。
そして、家庭と学校でのサポートに限界があると感じたら、ぜひ発達障害に理解のある専門機関への相談をおすすめします。